君だけに贈るぼくのキスただ1つ望むもの

君だけに贈るぼくのキス -ただ1つ望むもの-


今更、託生を手離すなんて出来る訳もないが…それでも、時々思い出す。
再会した時に見かけた託生と女とのツーショット。
オレと共に生きる人生を選択してくれた託生。
だけど…それは本当に託生にとって最良の選択だったのだろうか

もし、託生が選んだ相手が女なら…オレの与えられない未来がある。
結婚する事も子をなすことも…誰に後ろ指さされることなく生きていくことが出来る。
いくら託生を愛していても、オレにはそのどれも与えることができないから。
例え、託生が選んだ相手が男だとしても…しがらみの多いオレよりも
もっと楽に生きていけるだろう。

他の誰かに託生を取られる事など考えられないが…
オレと生きて行くことが、どれ程託生の負担になるのか…解らないオレではない。
だからこそ…祠堂を卒業するときに去って行く託生を追い掛ける事が出来なかったんだ。

再会して、二度と離れないと誓ったオレと託生。
オレと生きる覚悟を決めてくれた託生の気持ちを疑う訳じゃないが
あの時の…女とのツーショットを思い出す度にふと沸き上がるこの想い。
オレよりも託生を愛してる奴などいるはずがないという自信はある。
何があっても託生を守るだけの覚悟も力もある…
だけど、オレも託生も男だから… 決して手に入れることの出来ない未来を託生がどう感じるのか不安に思ったりするんだ。

「なぁ、託生。」
「ん?何?」
「本当に良かったのか?」
「だから、何が?」
「オレを選んだこと…後悔してないよな?」
思わず口にしたオレを、託生が驚いたように目を丸くして凝視する。
「それ、どういう意味?ギイは…その…後悔してたりする…の?」
不安そうに口にする託生に、慌てる。

「違う。そういう意味じゃない。後悔なんか、するわけないだろ。
ただ…その…お前、女に言い寄られてただろ。
もし……オレじゃなくて、女を相手に選んでたらさ…結婚とか子どもとか…違う未来があったろ。」
オレがそう言うと、託生がびっくりしたように目を丸くして
それから、笑った。

「あのさ、ギイ。
そんなの、ギイだって同じじゃないか。
もし…ぼくが女なら…
ううん。ギイが好きになった相手が女の子ならさ、ギイだってそのどれも手に入れられるじゃないか。
まして、ギイは、その… 相手に困るようなことないだろうし…ギイの人生にこそ必要だろ。」
Fグループの御曹司のギイ。
結婚だって、跡継ぎだって……ぼくなんかよりずっと必要なのに。

「でも……それでも、ぼくを選んでくれてるじゃないか。
そのどれもなくたって、幸せだと思ってくれてるんだろ?
ぼくだって同じだよ?ギイだから…幸せなんだ。
知らなかった?ギイじゃないと幸せになれないんだよ、ぼく。」

「託生……」
馬鹿だな……オレ。
オレだって託生じゃないと幸せになれない。
そんなの……この6年で想い知ったじゃないか。
結婚なんて…まして、子どもなんて。望んだ事など一度だってない。
望んだのは、たった1つ。託生だけ。

そっか……託生も同じように想ってくれてるんだ。
そう思ったら、堪らない幸福感に満たされて……託生をぎゅっと抱き締めた。
オレの腕の中で、苦しいよと託生が言う。
力を緩めたオレの顔を見て…託生が微笑みながら囁く。
「ギイじゃないと幸せになれないんだ。だから、ね。ちゃんと責任とってよね?」

何を不安になってたんだろうな、オレ。
託生を幸せに出来るのはオレだけなのに。
「当然。でもな、託生。オレも託生じゃないと幸せになれないんだ。」
「うん。知ってるよ」
そう微笑む託生が、堪らなく愛しくて。
2人でたどり着いたこの奇跡のような未来が、これからも永遠に続く事を確信した。

-END-

  

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