short storyギイくんのささやかなる妄想

ギイくんのささやかなる妄想

一時期は、愛してるのバーゲンセールが開催され、それこそ、四六時中ぼくにくっついていたギイなれど
最近は別々に過すことも多くなってきた。

元々、凄く多忙で人付き合いの多いギイとギイと付き合うまで、利久以外とまともに会話することすらなかったぼく。
当たり前たけど、こんなぼくとギイの行動パターンは、合わせようと思わなければ意外と合うことがないのだ。
どの部活にも所属してないのは一緒だけれど、放課後の忙しさは天と地ほど違う。
ギイと違って、用事らしい用事のないぼくは、寮の部屋に真っ直ぐ戻る事が多い。

今日も1人、部屋に戻って宿題を片付けているとギイが帰ってきた。
「ただいま、託生。」
「おかえり、ギイ。」
ギイは、部屋に入るとネクタイをほどいて、さっさと着替えを済ませるとぼくの隣に椅子を引き寄せて座った。

あんまりにも近い距離に、顔をぐっと引きながら
「何?ギイ…、ちょっと近すぎるってば。
宿題、終わらないだろ。」
「もうすぐ、終わるんだろ?」
「うーん。あと30分くらいかな。」
「そうか。あのさ、託生。」
「もうちょっとで終わるんだから、待っててよ。
話しかけられたら、やれないだろ。」
「そうか?」
そうかって…残念ながら、ギイのように優秀な頭を持ち合わせていないぼくは、集中しないと宿題を終わらせられないのだ。

「そうなんだ。早く終らせて欲しいなら、ちょっと離れて待っててくれないかな。」
「静かにはしてるぞ?離れる必要はなくないか?」
「ごめん、ギイ。悪いけど集中出来ないんだ。」
息が当たりそうなほどの距離で見つめられたら、ギイが気になって宿題どころじゃない。
ギイは笑うとポンポンとぼくの頭を触って、
「わかったよ。」
と言うと、自分のベットに壁に凭れて座ると何やら雑誌を開いて読み始めた。

「ごめん、ギイ。終わったよ。」
「お、早かったな。」
「で、何だっけ?ぼくに用事があったんだろ?」
「用事っていうか、聞きたいことがね。
あのさ、託生は、男と女どっちがいい?」
「…は?」
男と女…?それって、つまり…どういうことだろ。
びっくりしてるぼくにギイが慌てて言う

「違うぞ。」
「へ?」
「子どもの性別の話だから。」
「はい?」
恋人として、女の子の方がいいのかと聞かれてるのかと思ってた驚いたけど…子どもの性別?
益々、ギイの話の意図が全くわからない。

「オレとしては、やっぱり託生に似た女の子が可愛いんじゃないかと思うんだけどな。
託生は、どっちがいい?
まぁ、理想を言えば男と女一人づつだよな。」
「ごめん、よくわからないんだけど…。
あのさ、ギイ。何の話だって?」
「ん、オレと託生の子どもの話だよ。」
「…。」
「隣のクラスの大門っているだろ?
大門のところって、歳の離れた姉貴がいるらしいんだけどな、今度子どもが産まれるんだと。」

ギイの話は、つまりこういうことで…
帰り際、談話室で大門くんが(ぼくは、全く誰か記憶がないけれど、ギイは学年どころか全校生徒を覚えてると思う)
お姉さんに子どもが産まれて、叔父さんになるらしい。
で、男の子か女の子か、どっちがいいかという話になったらしい。
それが、どうしたらぼくらの子どもの話になるのかは、よくわからない。

そもそも。
ぼくとギイは男同士なんだから、子どもなんて出来るわけないし、高校生なのに子どもなんて出来たら困るじゃないか。
「あのさ、ギイ。
ぼくとギイに子どもが出来るわけないし、出来たら困るだろ。」
「なんだ託生は、オレ達のこども欲しくないのか?」
「じゃあさ、ギイは欲しいの?」
「オレは、託生に似た女の子がいいって言ってるだろ?」
「…。」
ギイは、普段とてつもなくリアリストなのに、時々こういうよくわからないことを言う。
まさか、本気でぼくとの子どもが欲しいと思ってるんだろうか?
ぼくとのこども…というのは、置いといて。
モデルのように整った容姿のギイの子どもであれば、それはきっと可愛いに違いない。

「ギイのこどもだったら、そりゃ凄く可愛いだろうね。」
とぼくが言うと、
「オレは、託生に似てる方がいいけどな。」
と笑った。

まぁ、現実的にはあり得ない話なので、冗談なんだろうなと思いながら、食堂にいくと章三に会った。
「なぁ、章三。男と女、どっちがいいと思う?
オレは、託生似た女の子がいいと思うんだけど、託生はどっちでもいいみたいなんだ。」
「はぁ?なんの話だ。」
胡散臭げな顔で、ぼくを見るのはやめて欲しい。
「何って、オレと託生の子どもの話に決まってるだろ。」
ギイがそう言うと、心底嫌そうな顔をしながらぼくの顔を一瞥すると
「なんだ、葉山。妊娠でもしたのか?
大事にしろよ。」
と言った。
「な、何言ってるんだよ。そんなわけないだろ!」
「当たり前だ。
まったく、ギイもギイだか…ちゃんと躾ろって言っただろ。」
と言うと、さっさと食事を済ませて行ってしまった。

「もう。ギイがおかしなこと言うから、赤池くんに怒られたじゃないか。」
「おかしなことなんて言ってないぞ。
 託生だって、どっちでも可愛いっていったじゃないか。」
「あのさ、それはギイの子どもならって言っただろ。」
「じゃ。やっぱり、オレと託生の子の事だろ。」
「…ギイ、ぼく、男なんだけど。」
「知ってる。
でもなぁ、これから先、託生以外とする予定がないからなぁ。イテッ!」

さらっと言われた台詞に顔が熱くなりながら、顔をあげるとギイの後ろに章三が立っていた。
「痛いな、章三。何するんだよ。」
「あぁ、悪い。あんまりアホな事ばっかり言ってたから、つい。」
「なんだ、部屋に戻ったんじゃなかったのか?」
「ああ、ギイに用事ができて戻ってきたら、あまりにもアホな会話が耳に入ったんで。」
「アホな会話とは、失礼だぞ。
で?オレに用事ってなんだ。」
「後で、島田先生が部屋に来いだとよ。」
「御大が?わざわざ、すまなかったな。」
「葉山をからかうのもほどほどにしとけよ。」
そう言うと章三は行ってしまった。
「からかってる訳じゃないのにな。恋人たちの甘い会話をわかってないな、章三のやつ。」

ギイはそう言うけど、男同士のぼくたちに冗談以外の何があるんだか…。
ここ数ヵ月で、ギイの事は随分わかってきたつもりだったけど、頭のいい人の考えることはやっぱりよくわからないと思うぼくだった。

―END―

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