short story恋愛の成就する確率

恋愛の成就する確率


「葉山先輩は、どれくらいですか?」
「え、何が?」
「だから、恋愛の成就する確率です。」
温室でバイオリンの練習をしていたら、真行寺くんと渡辺くんと中郷くんがやってきて。
突然に、そんなことを聞く。
恋愛の成就する確率なんて考えてみた事がないから、咄嗟に答えが出てこない。

「うーん…20%くらい?…かな?」
「相変わらず、葉山サン謙遜大王っすね。」
「葉山先輩なら、もう少し高いんじゃないです?」
「え?そんな事はないと思うけど…だいたい、そんなの考えた事ないからよくわかんないよ。」
限りなく低い…にしても、ゼロというのは流石に悲しいという見栄もあっての20%。

「葉山先輩って、彼女とかいるんですか?」
「え?…いない…かな。」
「へぇ。葉山先輩、もてそうなのになぁ。」
「壱、いくらもてそうでもこの環境で彼女って、相当ハードル高いから。」
と渡辺くんが言う。
人里離れた山奥に立つ祠堂学院。しかも、携帯電話禁止。
麓の街まで下りなくちゃ、女の子どころか、他の学校の生徒に会うこともない特殊な環境。
確かに彼女を作るには不向きな場所なれど、その気になればいくらでも出来そうな人を何人かぼくは知ってる。

「そうかなー。そりゃ、クラスメートとっていう訳にはいかないけど、まぁ、本気で考えれば全然無理な環境じゃないと思うけど?」
「まぁ、壱ならそうかもしれないけどさ。
俺にとっては、やっぱり簡単じゃないかな。」
クラスメートと気軽に恋愛という環境ではない故に、俄然上がってしまう恋愛の成就する確率。
中郷くんや真行寺くん、ギイのように立ってるだけで人目を引くような容姿や性格ではないぼくの場合
ここが祠堂でなくても決して高くはないだろうけれど。
20%よりは、マシになるだろうか?


  **********************


ギイのゼロ番で、放課後の出来事を話しながら
「ギイなら100%だろ。」
と言うと、ちょっと考えて
「うーん。それがそうでもないぞ。」 とギイがいうから、ちょっとムッとしながら
「天下の色男が何言ってんだよ。」
と返す。

この辺りの女子高生で知らない人はモグリとも言わしめる、眉目秀麗のギイ。
バレンタインにはチョコレートがダンボールで届くくせに。
恋人なんて、その気になればすぐにでも出来るであろう、ギイ。

「託生、お前さ、よもや恋愛の成就する確率と恋人のできる確率を同じだと思ってる訳じゃないよな?」
「えっ?違うの?」
「全然、違うだろ。」
「そうかな。一緒のようなもんだろ。」
とぼくが言うと、心底呆れたような顔でギイがぼくを見る。

「あのな、託生。恋人が恋い焦がれた相手じゃないことなんてザラにあるだろ。」
「…ないけど。っていうか、ぼくはギイのようにモテるわけじゃないからわかんないよ。」
恋人なんて、その気になれば選び放題…であろうギイ。
山千海千のギイ。
思わず拗ねるような、責めるような口調になるぼくに、ギイが慌てる。
「そういう意味じゃないから。」
「…」
「あのな、託生。
よく知らなかった相手に好意を寄せられて、告白されて付き合うのは恋が成就するってのとは別だろ。」
「それは…そう…かもしれないけど。」
「恋が成就するってのは、ずっと好きだった相手に振り向いて貰えるってことだろ。
だから、恋人ができる=恋が成就するじゃない。
実際、一年の頃のオレは、恋愛の成就する確率は0%に等しかったからな。」
「えっ?」
「ほら。誰かさんが、全然振り向いてくれなかっただろ。
でも、ほら、今なら恋愛が成就する確率は、100%になったけどな。」

ギイがぼくの顔を覗き込むように言うから、うっかり赤面してしまった。
ずっとぼくを好きだったと言ったギイの言葉を疑う訳ではないけれど、改めて言われるなんとも気恥ずかしい。
と、ギイがぼくを後ろから抱きしめ、耳元で囁く。
「なぁ。託生はどれくらい?恋愛の成就する確率。」

恋をした相手と両想いになれる確率…かぁ。
改めて考えてみたら、ギイと出会う前のぼくは、恋愛どころか人と接することすらまともに出来なくて。
そりゃ、うんと小さい頃なら、人並みに初恋なんかもあったけれど。
恋とカウントするには幼すぎて…、祠堂に来て気づけば惹かれていたのはギイ…君だけ。
ってことは、そのギイと恋人同士になれたってことは、ぼくの恋愛も100%成就したって事になるんだろうか?

そう気づいたら、なんだか顔がぼっと熱くなって…
赤くなった顔を見られるのが恥ずかしくて、うつむきながらギイの頬に顔をそっと埋めるように隠しながら耳元で
「ナイショ。」
そう言って、そっと頬にキスをすると
「何、可愛い事してるんだよ!」
ギイが微笑んで、ぼくをぎゅっと抱きしめた。

「なぁ、託生。その確率、ずっとそのまま変わるなよ。」
そう言うとそのままぼくの唇にキスをした。
ぼくは、そのままギイに身体を預け、ふわふわとした幸せな気持ちに包まれた。

変わるなって事は、ずっとギイといられるって事なんだろうか?
ギイはとにかくモテるし、ぼくでなければならない理由なんてなくて。
むしろ、相手がぼくであることの方が大変に違いないから
ギイにとって、ぼくが最後の恋になるのかどうかはわからないけれど
そうだったら、いいのに…と思ってしまうぼくがいて。
ぼくの方は、ギイを嫌いになることなんてないに違いないから
きっと、これが最初で最後のぼくの恋。

先の事なんて、誰にもわからないけれど ぼくにとってもギイにとっても恋愛の成就する確率が
ずっとこのまま変わらなかったらいいな…なんて思いながら、ギイの背中にぎゅっと腕を廻した。

―END―

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