short storyキモチよさのミナモト

キモチよさのミナモト

ぼくとギイが肌を重ねる時、ギイはとても優しく、でも…とても情熱的にぼくを求める。
ギイの綺麗な指が、大きな温かい手のひらが、触れる度にぼくの身体の熱は上がり
恥ずかしいのに、気がつけばその気持ち良さに我を忘れて、ギイを求めてしまう。

初めてギイがとぼくが肌を重ねた時から、ギイが求める側で、ぼくが受け入れる側で。
それは、何年たっても変わることはなくて。
その事自体に疑問を感じたことも…まして、不満を感じたこともないけれど
それこそ、数えきれないほどギイとは抱き合って。
プラトニックな関係ではなくなって、何年も経って。
今更と思いつつ、ベッドの中の事を口にするのはなんとなく恥ずかしくて…ずっと聞けずにいたことがあった。

「あのさ、ギイ。」
「ん?なんだ?」
なんとなく気だるさの残るベッドの中、思いきって思っていたことを口にしてみた。
「あ、あの…、あの…さ、ギイは、その…満足…って、してる?」
「何を?」
「えっと…、ぼくと…その…さ…。えっと…ぼくと…する、の。」
恥ずかしくて、シーツを目元まで引っ張り上げながら、しどろもどろになるぼく。
一方、ぼくの髪を指でくるくると遊んでいたギイは、何の恥ずかしげもなく
「ん?たくみとのセックスか?満足してるに決まってるだろ。」
と、言う。
「そう…なんだ…。」
なんとなく、スッキリしない気持ちでそう言うとギイががばっと起き上がる。

ぼくが、その勢いに呆気にとられていると
「もしかして、たくみは満足してないのか?」
と、ギイがぼくに聞く。
「ち、違うよ。そんな訳ないだろっ。」
そのギイの勢いに対抗するかのように、力一杯否定してしまったぼくだけど
これではまるで、満足してます!と言ってるようなものだと、恥ずかしくなる。
そんなぼくに、ニヤつきながらも、ギイは不満げに言う。
「じゃ、なんで急にそんなこと言うんだよ。」
「う…うん。その、なんていうか…ぼく、いつもギイに…してもらうばっかりだからさ…その、ぼくだって男だから…ね?」
ぼくの台詞を聞いていたギイの顔が驚きに染まり…
それからやけに納得したような顔で頷く。

「託生…。そっか…そうだよな。
オレ達、男同士なんだし…、託生が受け入れる側って決めつけるのも何だよな。
最初がそうだったからって、ずっとそうって訳じゃないよな…。
うん。まぁ、それも悪くないな。」

一人で納得しているギイにイヤな予感がする。
「あのさ…ギイ?何に納得してるの?」
「託生がオレを抱きたいって話だろ?」
「え?ぼくがギイを…?あ、あの!違うから!」
あまりにも素っ頓狂な事をギイが言うから、ぼくのほうがびっくりして
隠れていたシーツを投げ出して、起き上がる。
ぼくがギイを抱きたいなんて、思ったこともないし…そもそも、そんな事出来る気もしない。

「違うのか?してもらうばっかりじゃ満足出来ないって話だろ?」
満足できない…という事じゃない。
むしろ…ギイとする時は、いつも何度も何度も上り詰めて体がついて行けないくらいなのだ。
「えーと…そういう意味じゃなくて…その…ね。ぼくが…じゃなくてさ
ギイはぼくにしてくれるだけで、ちゃんと満足してるのかなって…こと。
ぼくも、その…もっとギイに…さ。
その方が…その…ギイも気持ち良くなれる…よね。」
あまりの恥ずかしさに支離滅裂なぼくのセリフをポカンと聞いていたギイ。
それでも、ぼくの言いたいことは何とか伝わったようで…
「そりゃ、託生がアレコレしてくれたら凄く気持ちいいだろうし、いつでも大歓迎だけど。
オレは、今のままでも充分気持ちいいし、満足してるけど?」
「本当に?」
「オレ、気持ち良さそうに見えないか?」
「……見える…けど…」
「だよな。オレ、いつもイッテるしなぁ。」
「…そういう事じゃなくてさ」
同じ男だから、入れればそれなりに気持ちいいだろうなって事はわかる。
だけど、ぼくが聞きたいのはそういう事じゃなくて。
その…ギイの言うところのアレコレが物足りないんじゃないかって事で。
いつもぼくだけがイカされて、ギイは満足してなかったらイヤだなとか…。

「バカだな。託生。
託生とするのは気持ち良すぎて、入れる前にでもイキなんだぞ、オレ。
結構、いつも限界なんだぞ、これでも。」
「だって、そんなの。ぼく、何もしてないのに…」
「あのなー託生。お前、全然わかってないんだな。
オレが気持ちいいのは、託生とセックスするからだぞ?
他の誰でもない託生が相手だから、気持ちいいんだ。
託生の肌に触れて、キスするだけで興奮するし、託生の感じてる声聞くだけで、すっげぇ気持ち良くなって堪らないんだぜ?
託生は違うのか?」
なんて、後ろから抱きしめながら言うから顔から火が出そうに恥ずかしい。
真っ赤になって、俯くぼくにギイが「自分から話を振ったくせに。」と、笑う。

そんなぼくに、ギイが悪戯な目をして言う
「じゃあさ、今日はタクミくんがアレコレしてくれる?」
そんな風に言われたら恥ずかしくて、うんとも言えず…。
真っ赤な顔で言葉につまるぼくに、ギイが囁くように耳元で言う。
「あのさ、託生。別に、何もしてくれなくていいから。
その代わり、我慢しないで託生の声…たくさん聴かせてくれよ、な?
お前の感じる姿…もっと見せてくれよ。そうやって、オレの事うんと気持ちよくして?」

欲情を帯びた熱っぽい声を聞くだけで、ぼくの体温が上がるのを自覚して恥ずかしくなる。
さっき…あんなに抱き合ったばかりなのに。
あぁ…でも、そっか。
ぼく…今、ギイの声に感じてる。
「な?」
そう言いながら、素肌に手を這わせてくるギイ…。
それだけで、ゾクゾクと身体が応え初めて思わず声がこぼれる。
「んっ…は…ぁん」
「んっ。託生、オレ…今すごく気持ちイイ…ホラ。」
そう言って、高ぶった欲望を腰のあたりに妖しく押し付けるから…
「んんっ!ギイ…」
「もっと…もっと聴かせて…」
囁きながら、首筋に舌を這わせるギイに…ぼくこそが堪らなくって再び身を委ねた。

そっか…。
欲望を満たすために抱き合う訳じゃない。
相手がギイだから…欲望が沸いてくるんだ。
抱かれたい…ギイにだからこそ感じるこの想いを伝えたくて
いつもは押し殺すその嬌声を…ありのままにギイに届けた。

―END―

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