short storySweet Bubble

Sweet Bubble


祠堂を卒業して何年か経ち、ニューヨークで暮らし始めたぼくとギイ。
日本とニューヨーク。
超遠距離恋愛をしていた時に比べれば、一緒にいる時間は格段に増えたものの…
祠堂で同じ部屋に住んでいた時のようには、いかなくて。

まぁ、それは。
何もぼくとギイに限った話ではなく、お互いに仕事をもっているのだから当然と言えば当然だ。
まして、ギイは普通の人以上に多忙で…特殊な環境にいるのだから。
ぼくもそれなりに忙しくはあるものの、どうしても家で待つ時間はぼくの方が長かった。


今日もギイは遅いのだろうか?
そんな事を思いながら、家に帰る途中に胸のポケットで携帯が震える。
突然の祠堂にびくっとして、足を止めて携帯を取り出すとディスプレイには「honey」の文字。
高校時代に初めてギイから貸与されたあの携帯は、何度も機種変更されてはぼくの元にやって来たけれど…
お揃いのハート形のストラップとこの恥ずかしい…ギイが登録した名前だけはずっと変わらなかった。

ギイとは何年も一緒にいるのに、未だギイからの電話だと思うだけで胸が高鳴るぼくも相当だと思いながら、通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「あ、オレ。託生、今大丈夫なのか?」
「うん。今帰る途中だけど…どうかしたの?」
「いや、珍しく仕事が早く終わって家に戻ったら託生がいないからさ。
今日はまだ遅くなるのかなと思ってさ。」
少し照れくさそうに話すギイが何だか可愛くて、思わずクスリと笑ってしまう。
「もう少しで着くから……うん、わかった。じゃ。」

そう言って電話を切って、家路を急ぎながら思わず頬が緩むぼく
帰ったら、ギイがいる。
…それだけでも、幸せなのに。
電話をかけてくれるほどに、ぼくの帰りを待ちわびてくれているかと思うと…堪らなくて。
走り出しそうになるのを抑えながら、足早に家へと向かう。

「ただいま」
「おかえり、託生」
家に着くと、ギイが玄関で抱きしめてくれる。
外気で冷えたぼくの身体をギイが温めてくれる。
ぼくは、ギイの香りとぬくもりに包まれて、堪らなく幸せな気持ちになる。
そのまま、うっとりと胸に凭れかかりながらギュッとしがみ付くと、ギイが嬉しそうに笑う。

「託生、寒かっただろ?さ、風呂に入ろう。」
「え?」
入って来いじゃなくて、入ろうって言ったよね?
ぼくが、訝しげにギイの顔を見上げると、やけにニコニコしながら
「一緒に、風呂に入ろうぜ」と笑う。

「えっ…い、いいよ。
ギイだって、仕事から帰って来たばっかりなんだろ。先に入って来て…」
そりゃ、ギイとは何年も一緒にいるし。
今更…とは思うけれど、一緒に風呂に入るのは何だか恥ずかしい。
あの明るい空間で裸を見られるは、照れくさくて今だに慣れないんだ。

「せっかく珍しく仕事が早く終わって、オレ、託生と一緒に入ろうと思って待ってたんだぜ?」
そう言いながら、ギイはぼくの身体をくるりと回すと背中を押しながらバスルームへと促す。
「あ、あの…ちょっと、ギイ?」
「じゃ、オレ先に入ってるから、託生も来いよ?」
そういうとさっさとバスルームへと消えて言った。
……沈黙は了解…なんだよね、やっぱり。
ギイの強引さに苦笑いしながらも、このまま入らずいればギイの機嫌を損ねるのは一目瞭然だし。
ぼくは諦めて衣服を脱ぐと、バスルームの扉を開ける。

「は……い?」
中に入ると…そこはいつもとは様子が違っていて。
真っ白な泡で満たされたバスタブの縁に腕を廻して、寛ぐギイがいた。

…ドキッ

「託生、おいで。」
ギイがゆるゆると笑いながら、ぼくに腕を伸ばす。

その姿が…まるで映画のワンシーンみたいに格好良くて。
思わず胸がドキドキして、見惚れる。

…反則だよ…ギイ。

そもそも…何で泡ぶろなんだろう?
「早く来いよ。」
ギイが、思わず見惚れて立ち尽くすぼくの腕を掴むと泡の中に引きいれる。
そして、泡の中で後ろからギュッと抱きしめられる。
お風呂なんだから…お互い裸なのは当たり前だけど…
裸で抱きしめられれば、その…やっぱり…それなりに感じてしまったりする訳で。
泡で身体が見えないのが救いだけれど、こんなに密着していたらぼくのドキドキがギイにも聞こえそうで…恥ずかしい。
そんなぼくの事情を誤魔化したくて…取り合えず思っていた事を口に出す。

「あ、あのさ…ど、どうしたの?」
「ん?」
ギイ…耳元で囁かないで。
「こ、このお風呂、さ。」
「泡風呂か?いいだろ、たまには。
いつもお前、一緒にお風呂入るの恥ずかしがるだろ?
だからさ、泡風呂にしてみたんだ。これなら見えない、恥ずかしくないだろ?」
「う…う、ん。」

確かに…見えないのは嬉しい。
でも、この非日常的な感じと…なんともアメリカンな…というかセレブ的な光景にギイが似合いすぎて。
これはこれで、恥ずかしいと言うか…なんというか…

そう…なんだ。
恥ずかしくも…というか、はしたなくも…というか。
この…何とも色気のあるギイの入浴シーンに、ぼくはすっかり煽られていて。
身体が…その、反応してしまったりするわけで。
ただ一緒にお風呂に入っているだけだと言うのに、欲情してしまう自分がさすがに浅ましくて…恥ずかしすぎる。

そんなぼくを知ってか、知らずか…ギイがぼくの耳元で囁く。
「託生…」
びくんっ
ただ、名前を呼ばれただけなのに…その甘い声に思わず震えるぼくの首筋に、ギイが顔を埋めて、そっとキスを落とす。
「んっ…」
思わず漏れてしまったその声に、ギイが気付かない訳がなく…
ギイの舌がそのまま首筋を這って、耳朶を軽く噛む。
「あっ…んっ」
「何か、今日の託生…色っぽいな。オレ、ヤバいかも。」
耳に舌を差し入れながら、吐息のような声で囁くから、ヤバいのはぼくだよ、ギイ。
ギイの右手が、ぼくの腰を撫でながら這ってきて胸の突起を摘むと欲情したぼくの身体に電流が走るよな快楽が襲う。

「ちょっ…ね、ギイ…」
「ん?」
ぼくの小さな抵抗など、まるで気付かないフリをして、ギイの手が容赦なくぼくの身体を弄る。
ギイの唇がぼくの唇を塞ぎ、熱く舌を絡ませる。
その深く激しいキスにぼくの身体はますます熱くなって…思わずギイから逃れようと身をよじると
背中にギイの固くなった欲望が押し付けられる。
「なぁ、託生…ホラ、オレ…もう我慢できない」
そう熱っぽい声で囁かれたら…堪らなくて。
そんなグズグズにギイに溶かされたぼくの身体を抱き上げるように浴槽のヘリに座らせると
「なぁ、託生。暑くてのぼせそうだから、飲ませて?」
と言いながら、ぼくを咥える。
「んっ…」
ギイの柔らかい口内に導かれて、ぼくはもう自ら理性を投げ出した。

―END―


 そんな事があってから、やたらと泡風呂が準備されることが多くなったとか…なかったとか。
 泡風呂に入ってるギイって、凄くさまになるんだろうな。
 とか思って書き始めたのに、ギイと託生くんってば…
 結局始まっちゃったのね(笑)

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