long story幸せな完敗

幸せな完敗 3


「麻生先輩がこちらにみえるなら、急ぐ必要なかったですね。」
「ん?葉山くんの事?」
「えぇ。」
「そっかー。ギイ、葉山くんと同じクラスだ。」
「葉山の事、気に掛けていただいてありがとうございます。」
「いつもギイが仲裁してるんだろ?」
「いや、流石にいつもって訳じゃないですけどね。」
祠堂は広いですから…と笑いながら
「今日みたいに相手が先輩だと気を遣いますから、麻生先輩が葉山を気に掛けて下さって助かります。」
と、出口に向かう葉山の背中を見ながら言った。

「またまたー。相手が先輩だからって気にするようなギイじゃないだろ。」
「そんな事ないですよ。」
実際、最上級生を相手に何度も葉山の仲裁をしているのを見たことがあるし、
不思議と言われた方も年下のギイの仲裁を何故か受け入れてしまうのだ。
だからと言って、ギイが歳上にも偉そうにしているのかと言えばそんな事はなくて。
むしろ、ちゃんと敬語も使うし、上級生にもかわいがられている。
Fグループの御曹司だからでも、このルックスだからでもなく、何か人を惹きつける何かがあるんだよな、ギイは。
そんなギイでも、葉山と距離を詰めるのは、なかなか上手くいかないようだけど。
まぁ、俺だって、ささやかに日々努力をしてるんだから、ギイにだけすんなりと警戒心を解かれてはたまったもんじゃない。

「それにしても、あれじゃ、あと二年半も寮生活は大変だろうなぁ。」
「葉山ですか?意外と大丈夫なんじゃないですかね?
同室の片倉とは、上手くやっているようですし。」
「来年は、ギイと同室だといいのにな。」
「え?」
「いや、一回同室になった人とは、同じ部屋にならないだろ?
いくら今年、片倉くんと上手くやってても来年はどうかわかんないじゃないか。
葉山くんの事を気に掛けてるのは、他にギイくらいなものだし。
俺だって、葉山くんと同室になれるんなら大歓迎だけど、残念ながら来年はいないしなー。」

「麻生先輩、葉山の事、気に入ってますもんね。」
「まあね。卒業までになんとか気安く触れるようになれないかなー。」
「気安く触るってのは…、どうですかね?」
「だよなー。ギイはどうなんだよ?」
「オレですか?…難しいんじゃないですかね。」
「あ、違う違う。気安く触るって方じゃなくて、同室になる方。ギイも歓迎だろ?」
「葉山の方に歓迎されないんじゃないですか?オレ、どうも嫌われているみたいなんで。」
「ふーん。そうなんだ?」
「…まぁ、どちらにしても部屋割りは先生の管轄ですから。」
「まあね。あ〜あ。どうせなら、今年葉山くんと同室になりたかったなー。」
「…麻生先輩となら葉山も上手くやれそうですね。」
「ギイとでも上手くやれるだろ。しかも、葉山くんと同室になれるチャンスもある。
ずるいぞ、ギイ。」
「あはは…。」

にこやかに話しながらも、なんとなく浮かない感じのギイ。
さっきの…まるで自分の事のように傷ついた表情をしたギイ。
いつもにこやかだけれど…逆に、表情をあまり読み取らせないギイだからこそ、不自然で。
だからこそ、気付いてしまったのだ。

それからも、葉山が揉め事を起こすたびに…というか、揉め事に巻き込まれる度に仲裁に駆けつけるのは決まって、ギイか俺で。
あの日に感じた、ギイは、葉山託生を好きなんじゃないかという疑問は確信に変わりつつあった。
表には決して出さないし、元々の気が回る性格も隠れ蓑になってるだろうし。
何よりも…ギイと葉山という組み合わせが、あまりにも意外過ぎて、誰も気づかないけれど。

どうやら、ギイが葉山くんを好きなんだってことは間違いなくて。
でも…
葉山くんの方は、どうなんだろう?
彼の好意をどう思っているんだろうか?

  
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